画家・伊東雅江さんの2016年5月の「鎌倉カレンダー」より。

大町の四つ角を材木座海岸方面に進み、踏切をわたって、水道路の信号を右手に入ったあたりに、旧鎌倉ではたったひとつになってしまった古いお風呂やさんがあります。昭和30年創業の「清水湯」さんです。
火・木・土・日の午後3時から営業していて開店時間近くになると、ご近所のお年寄りが集まってきて開くのを待っているような懐かしいお風呂屋さんです。
昔ながらの暖簾をくぐり、木の下駄箱に木札の鍵。今では珍しくなってしまった高い天井の広々としたお風呂には、赤い金魚のタイル絵があります。
週末には家族連れや外国人の入浴客も多く、近頃では江ノ島まで走るランナーが、先にロッカーを借りて着替え、マラソンの後に湯船に浸かって帰るそうです。冬になるとサーファーも多くなるとか。
清水湯のあるこの場所には、かつて洋画家黒田清輝の住居がありました。清水湯を訪ねた時に伺ったお話では、400坪の敷地に三階建ての瀟洒な洋館が建っていたそうです。今でも男湯の小庭には黒田邸の石灯籠がそのまま残してありました。
<絵/文 伊東雅江>
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