画家・伊東雅江さんの「鎌倉カレンダー」2014年11月より。
江ノ電長谷駅から鎌倉大仏の方向へ歩き、鎌倉能舞台の方に左に曲がった桑ヶ谷の谷戸に、敷地面積5000坪、建物は150坪、茶室が二席ある大きなお屋敷があります。大正7〜8年に建てられた、鎌倉に残り少ない関東大震災前からの建物で、広い敷地ごと、周囲の環境もそのまま保存されています。
この大別荘を建てたのは、実業家・政治家として知られる山本条太郎氏です。三井物産の重役など実業家として活躍したのち、政治家として衆議院議員に5回当選、昭和2(1927)年に南満洲鉄道総裁に就任し、茶人としても知られた人物でした。条太郎の没後、ごま油の製油業を営む実業家 九鬼悠巌氏の持ち物となっていましたが、昭和57年に現状のまま保存・使用することを条件に宗教団体である神霊教の所有となりました。ここ数年、お庭の紅業が美しい11月にお茶会が開かれ、一般公開されています。
門を入りゆるやかな上り坂をすすむと、銅板葺きの木戸門があり、さらに上った先に母屋の広い玄関があります。和風の平屋の建物で、玄関から続く階段を上ったさきは、縁側がぐるりと回った畳の広間になっています。広間に下がる電燈の笠にはバッタの細工がついており、細かな意匠まで凝った昔の別荘の風流さに感心しました。広間からは庭の向こうに海が見え、逗子のほうまで望めます。広い庭園には立派な石灯籠がいくつも残っており、中には秀吉の朝鮮出兵の折に兵が持ち帰ったと伝わるものや、茶人として有名な松平不昧(ふまい)ゆかりの石灯籠もあるそうです。右上に描いたのが、不昧の石灯籠になります。
<絵/文 伊東雅江>
コメント