地引網 坂の下

画家・伊東雅江さんの「鎌倉カレンダー」2017年8月より。

鎌倉カレンダー2017年8月

地引網は、漁師さんが沖にしかけた網を3時間後位に綱引きのように皆で陸まで引っ張り上げる、昔ながらの漁法です。長谷の子供会主催で観光地曳網が行われると聞いたので海岸まで行ってみると、休日の朝から親子連れが集まっていました。歌舞伎「白浪五人男」の舞台でもある由比ガ浜の稲瀬川尻で行われるようです。

魚の入った網が浅瀬へ上がってくると、どこにいたのかと思うほどすごい数のカモメ・トビ・カラスらが集まってきました。波打ち際で漁師さんがおおきな樽に魚を移してくれるのを、参加者で分けて家に持ち帰ります。引き上げた網の中は、このときはスズキ・ボラ・シタビラメ・ヒラメ・カレイ・アジ・クロダイなどなど大漁で、子どもたちも大喜びで目を輝かせて樽の中を覗き込んでいました。

古くからの地元の漁師さんにお話を伺ったところ、由比ガ浜では江戸時代に加藤長四郎さんという漁師さんが地引網をはじめたので“長四郎網”と言われていて、江戸中期の「相州江嶌風景由井濱地引網之図(北尾政美画)」という浮世絵にも描かれているということや、戦前にドイツからヒトラーユーゲント(ナチの青少年団体)が鎌倉を訪れた時の地引網では、沖でタイやヒラメ、イセエビなど豪華な魚を網の中に入れて歓迎したことなど、楽しいお話をたくさん教えていただきました。鎌倉の漁業は網がボロボロでも直せず使用していたような厳しい時代もあったそうですが、現在まで続いて、相模湾の豊かな幸を私たちに届けてくれています。

<絵/文 伊東雅江>

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