鎌倉の深い山の奥に瑞泉寺があります。このお寺の前には管理人の老夫婦が住んでいました。ある晩、近くの寺のお坊さんという人がお酒をもって訪ねてきました。
老夫婦は囲炉裏に案内し、あたたかい食事をふるまいました。それからこのお坊さんがよく食べに来るようになりました。
ある時、お坊さんはお酒に酔って寝てしまいました。すると、タヌキの姿になっているではありませんか!驚いたおじいさんが囲炉裏の火箸でその腹を刺すと、死んでしまいました。タヌキはお坊さんに化けて、老夫婦をだましていたのです。
とはいえ、かわいそうなのて手厚く弔われました。そのお墓は「むじな(=タヌキ)塚」として今もお寺に伝わっています。
絵/渋谷雅子
お話/コソガイ
狢(むじな)とはアナグマの異名ですが、狸(たぬき)のことを呼ぶこともあります。今の鎌倉にはタヌキはいてもアナグマはいません。このお話の頃は両方いたので、本当はどちらだったのかはわかりませんね。
夢窓国師が瑞泉寺を開いたころ、この辺りのむじなや狸が国師の徳を慕って説法を聞きにきたとか、寺男に姿を変えてよく働いて大往生した、いう話もあります。
瑞泉寺境内の鐘楼の奥、小高くなったところにむじな塚はあります。石仏に囲まれたむじな(タヌキ?)の石像が置かれています。
瑞泉寺(ずいせんじ) 鎌倉市二階堂710
瑞泉寺は、鎌倉時代末期の嘉暦2年(1327年)に創建し、室町時代には鎌倉公方の菩提寺として、関東十刹に名を連ねる臨済宗寺院です。
開山の夢窓国師(夢窓疎石)は中世を代表する禅宗の高僧・作庭家。瑞泉寺の岩庭は鎌倉石の岩盤を彫って作られたもので、鎌倉に残る鎌倉時代唯一の庭園です。
文/コソガイ
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