むかし深沢の湖に、5つの頭を持つという五頭龍が住んでいました。龍は津村から腰越にかけて山を崩し、田畑を荒らし、子どもをさらい、村人に恐れられていました。
ある日、海の上に突然黒い雲がわき、はげしい雷鳴とともに波の間から江ノ島があらわれました。すると天空から金色の光が差し、童を従えた美しい弁財天が島に降り立ちました。
一目見て五頭龍は弁財天に結婚を申し込みます。でも、悪さばかりしていたので断られてしまいます。あわてた五頭龍は「これからは心を入れ替え、村の人のために尽くします」と約束しました。
二人はめでたく夫婦になりました。以来、五頭龍は日照りに雨を降らせ、台風を防ぎ、人々を助けました。やがて龍は歳をとると山となり、今でも江ノ島を見つめて、この地を守っているとのことです。
絵/渋谷雅子
お話/コソガイ
古来、龍は水を司る神様とされています。鎌倉では、谷戸にしみ出した水が流れる小さな川がたくさんあります。5つの頭は川の流れが広がる様子を示しているのかもしれません。
龍が子どもを食べるので、村人たちは泣く泣く他の土地へ越していきました。それでこの辺りを「子死越(こしごえ)・子死恋(こしごい)」と呼び、いつしか「腰越」になったといわれています。
永承2年(1047)、天台宗の僧・皇慶の作と伝わる「江島縁起(えのしまえんぎ)」に、この物語が記されています。弁財天をまつる江島神社と五頭龍をまつる龍口明神社は夫婦の関係です。
旧・龍口明神社(りゅうこうみょうじんしゃ) 鎌倉市津1
欽明13年(552)、龍の口にあたるところに村人たちが建てた社がはじまりです。昭和後期に龍の胴にあたる新鎌倉山へ移転。旧境内は立ち入り禁止です。
神社の由緒、現在の様子など詳しくは関連記事をご覧ください。
イラスト増量、短文に英訳を付けて紙芝居形式にしたものを別記事で紹介しています。
文/コソガイ
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