星月の井(ほしづきのい)

奈良時代、高名な僧・行基が、鎌倉の極楽寺坂を越えた坂ノ下あたりで虚空蔵を祭る法を行いました。すると、ここの井戸の中で明星が光り輝いて見えました。それは七日間も続き、行基は井戸の中に何か特別なものが入っているに違いないと感じました。

土地の人を集め、井戸の水を汲みだすと、珍しい形をした石が出ました。行基は虚空蔵さまが石に姿を変えたものと思い、虚空蔵堂をつくり、虚空蔵菩薩の像を彫って祭りました。

井戸はその後、近所の女性が水を汲もうとして包丁を落としてしまい、以来、中に星は見えなくなってしまったと伝わっています。

星月夜の井戸

絵/渋谷雅子
お話/コソガイ

虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)は福と智の二つの徳をつかさどっている仏と言われています。物語中の「虚空蔵を祭る法」とは、「虚空蔵求聞持法(こくうぞうぐもんじほう)」という、虚空蔵に知恵などの力を与えてもらうためのたいへんな修行のことです。

井戸の脇の石段を上がったところに、行基が彫った像を祀った虚空蔵堂があります。元の名は「明鏡山円満院星井寺」といい、現在は成就院が管理しています。

この辺りは木々が茂って昼も暗く、古くは「星月夜ケ谷」という地名で、井戸の名もそれによるとも言われます。

「星月夜」は鎌倉にかかる枕詞にもなっています。旧・鎌倉町(明治27年〜昭和14年)の町章には、星と三日月のマークが使われていました。

星ノ井(星月夜ノ井、星月ノ井とも) 鎌倉市坂ノ下

鎌倉十井のひとつ、極楽寺切通の登り口にある井戸です。水は清らかで美味しく、昭和初期まで名水として売られていたそうです。

絵葉書で見る鎌倉百景(鎌倉市図書館近代史資料室所蔵)

鎌倉の土地は水質に恵まれず、良質な水の湧く井戸は貴重な水源でした。中でも美味で伝説があり、鎌倉の名所とされる10の井戸が、鎌倉十井(かまくらじっせい)。江戸時代刊行の「新編鎌倉志」の中で選ばれたものです。

文/コソガイ

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