むかし、津村(鎌倉の西の方)に小さな池がありました。底には大蛇が住んでいるという。
ある天気の良い日、大蛇はネコに姿を変え、池の周りを散歩していました。畑仕事を終えた近くの農夫が涼むために、池に足をひたしに来ました。農夫は、いつもと違ってとても涼しく、何か大きいものの陰になっているようだと思ってふり向くと、大きな大きなネコが2本足で立って日影を作っているではありませんか。2つの光る目が農夫を見てニヤッとわらいました。
農夫は驚いて家にとんで逃げ戻り、以来この池はネコ池と呼ばれました、とさ。
絵/渋谷雅子
お話/コソガイ
このお話には次のような後日談もあります。
農夫は恐れおののいて亡くなってしまい、村人達は池に近づかなくなった。それから時が経って、お坊さんにお経を上げてもらったところ、白い蛇の死体が浮かび上がった。それ以来、池の水は田畑をよく潤すようになった、という。
猫池 鎌倉市腰越・津
名前の由来は諸説あります。池の魚を食べる野良猫がたくさん棲んでいた、池の形が猫に似ている、周囲の山が猫が寝ている姿に似ている、などなど。
元は鎌倉山の湧き水が集まって出来た池で、津村の人々が農業用水として利用していました。しかし、小さな池で日照りが続くとすぐに涸れて水不足になっていたので、村人達は池を広げて溜め池を作りました。
1970年代、西鎌倉山住宅地(猫池分譲地)の開発で埋め立てられたため、池は現存しません。地名の字(あざ)や近くの「猫池隧道」にその名を残しています。
猫池は緑で囲まれた谷戸にあり、近所の子どもたちにとっては恰好の遊び場でした。
昔この池でよく遊んでいた人の話によると、
「水が少なくて浅い池だった。大きなオタマジャクシがうじゃうじゃと泳いでいた。最初はきれいだったが、周囲で工事が始まると更に水が減り、泥だらけになっていった」
とのことです。
後に、少し離れた位置に雨水調整池が整備されて「猫池調整池」と名付けられました(参考:鎌倉市社会基盤施設白書)。フェンスで囲まれて普段は水もほとんどない場所ですが、最近はこちらを「猫池」と呼んでいることも多いようです。
文/コソガイ
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